催眠状態とは、どんな感覚なのか
催眠を受けたことがない方は、「催眠ってどんな感じなの?」「怖くないの?」と思うかもしれません。催眠状態は、心と体の力が抜けて、ふわっと気持ちいい状態です。温泉に入ったときや、マッサージを受けているときのように、緊張がゆるみ、日常のストレスから離れられます。眠っているのとは違い、解こうと思えば自分で解けます。受ける前から終わったあとまで、順を追って書きます
受ける前の不安は、誘導の途中でほどける
「呼吸に合わせて、だんだん楽になっていく」とゆっくり暗示を重ねていくと、不安そうだった方の心と体から、ふわっと力が抜けていきます。不安になるのはふつうのことで、その不安が安心に変わったところで、力が抜けます
入っていくときは、リラックスのその先へ進む
「体の力が抜ける」「だんだん眠くなる」と脱力の暗示をすると、受ける方は筋肉がゆるみ、考えるのをやめていきます。このとき心の中では、考えることを受け持つ顕在意識より、潜在意識のほうが活発に働きます。私はこれを、心の中の「6歳の子ども」にたとえて説明します。ふだんは大人(顕在意識)のほうが前に出ていますが、催眠状態では子ども(潜在意識)のほうが前に出て、考えずに、遊ぶように暗示を楽しめるようになります
一度催眠を解いたあとで、もう一度催眠に誘導すると、早く入れます。深く入った方の催眠を一度解き、「また、さっきの気持ちいい状態に戻っていく」と誘導すると、1回目より早く入っていくことが多いです。子どもが、一度覚えた遊び方をすぐに思い出せるのと同じです
中では、かける人の言葉に心と体が反応する
「腕が伸びたまま、曲がらなくなる」と暗示すると、曲げようとしても、腕が曲がらなくなります。言葉にしなくても、指をパチンと鳴らすだけで、反応が起こることもあります。言葉にしていない部分を、行動から読み取って補おうとしているからです。催眠状態の人は、かける人の意図に集中しています
心の奥では、催眠にかかっている自分を楽しんでいる
「あなたは猫です」と暗示すると、まるで猫になったかのように、心と体が勝手に反応します。ふつうに考えれば、猫になるのは怖いはずです。それでも、催眠を解いたあとに感想を聞くと「本当に猫になってた!猫として世界を見ていた!」と、驚きつつも楽しそうに話してくれます
催眠にかかっている人は、自分が催眠状態にあることを、心の深いところで自覚していて、不思議な体験を一歩引いて楽しんでいます。研究の世界にも、催眠の中では意識が2つ以上の流れに分かれ、その一部が催眠にかかっている自分を見ている、という考え方があります(新解離説、注2)。私は、この見ている側の意識が、不思議な体験を楽しんでいるのだと考えています
終わるときは、自分の意思で解ける
催眠をかけている途中でも、解こうと思った時点で、催眠は解けます。長く続けていると、飽きて自分から覚めることもあります。心の奥のほうが「もういいかな」と思うと、自然に覚めます
終わったあと、催眠中のことを忘れていることがある
深い催眠のあとに起こることで、すべて忘れていることもあれば、一部だけのこともあります。これを自然健忘といいます。深い催眠状態で「すべてを委ねても大丈夫」と安心していると、暗示を覚えておく必要がないと心が判断するからです
催眠状態になるのは、ふつうの脳の働き
催眠状態は、頭で考えなくても、体が反応する状態です。「酸っぱいレモンをかじるところを思い浮かべてください」と言うと、催眠に入っていなくても唾が出てきます。本や映画に夢中になって、呼ばれても気づかないことや、車を運転していて、途中の道のりを覚えていないこともあります。催眠状態は、こうしたふだんの脳の働きが、より強く出ている状態だと私は考えています。それでも催眠は昔から、あやしいものと言われてきました
催眠に特有の意識の状態があるのかどうかは、研究者の間でも長く議論されていて、脳の画像を使った研究でもまだ決着していません(注1)。私は、催眠に特有の状態は「ある」と考える側ですが、人の心のことなので、どの説も少しずつ当たっていると思います
催眠は、操作ではなく発見
「2本のペンが、磁石みたいにくっつく」と暗示すると、かかりやすい人ほど、自分の反応に驚きます。自分の中にあった反応が出てくるのを、本人が見つけているのだと私は考えています
文:催眠療法士だいき
注
- Mazzoni G, Venneri A, McGeown WJ, Kirsch I.「Neuroimaging resolution of the altered state hypothesis」Cortex 49(2), 400-410, 2013. PubMed。催眠に特有の意識の状態があるのかが論争になっていることと、脳の画像を使った研究でも、催眠の誘導で起きる脳の変化が特有の状態を表すのかはまだ分からないことを、まとめています
- Kirsch I, Lynn SJ.「Dissociation theories of hypnosis」Psychological Bulletin 123(1), 100-115, 1998. PubMed。催眠の解離説をまとめた論文です。ヒルガードの新解離説では、意識が同時に2つ以上の流れに分かれると考えることを紹介し、その説の強いところと弱いところを検討しています
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